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■ Profile ■
柳谷杞一郎(やなぎたにきいちろう) 写真の学校/東京写真学園校長。 広告・出版物の制作ディレクターを経て、88年エスクァイア日本版の月刊化に際し、編集者として参加。90年副編集長。91年にカメラマンに転身。“大人の感性”と“少年の温もり”の混在する写真家として注目を集める。写真集に『Rapa Nui』『X』、著書に「写真でわかる<謎への旅>」シリーズの『イースター島』『マチュピチュ』などがある
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東京写真学園プロカメラマンコース研修科のある生徒の作品について某誌編集長と僕の評価は大きく分かれました。
その生徒たちの作品は、モデル撮影によるファッション写真をきっちり1年間続けてきたものです。
某誌編集長は「うまいとは思うけど、新しさがない。普通っぽい。そういう作品なら今までに実績のある人たちに撮ってもらえばいい」という意見です。
当然といえば、当然の意見なのですが、僕の考えは少々違います。「1年かけて、これだけしっかりと作品づくりをしてきたひとは、どんな仕事を頼んでも必ずいい仕事をする。こういう若者にチャンスを与えてやるべきだ」というものです。
ファッション写真の作品を積みあげていくのは大変な作業です。まずモデルが魅力的でなければなりません。写真の基本は、1にモデル、2にモデル、3、4がなくて5にモデルなのです。自分の知り合いの誰か、街で声を掛けた誰かでも撮影は可能ですが、手軽なところでのモデル探しを続けていくと、やがて手詰まりになります。レベルの高い写真には、レベルの高いモデルの確保が必要不可欠です。
第2にヘア&メイクなしでは撮影が成立しません。ヘア&メイクに心が配られていないファッション写真などありえないのです。
第3にスタイリングにセンスがなければなりません。モデルが着てきた服をそのまま撮っていたのでは、ファッション写真とはいいがたいものになってしまいます。
第4にロケーションに気を使わねばなりません。このモデル、このヘア&メイク、このスタイリングに合ったロケーションというものがあります。逆に言えば、このロケーションに合ったモデル、ヘア&メイク、スタイリングがあるというべきかもしれません。ロケーションも、「まぁいいや」と思い始めるとどんどん適当になってしまいます。
誰だってカメラ片手に街をそぞろ歩き、あっちでパチリ、こっちでパチリ、写真を撮って「私ってセンスあるかも」と思っているのは楽しいのです。ストリートスナップを撮っていて「私、カメラマンになりたい」と言っている若者は山ほどいますが、真剣にファッション写真に取り組んでいる人は、極めて少ないというのが現状です。確かに友達や恋人のさりげない日常をスナップにしていれば、それはそれなりに絵になります。でも、そのそれなりに絵になった写真を持って「私にカメラマンとしての仕事をください」と歩きまわっても、なかなか仕事にはなりません。
ファッション写真をそれなりの絵にするには、かなりの努力が必要です。モデル、ヘア&メイク、スタイリング、ロケーションの四つの要素のどのひとつも手を抜くことができません。手を抜いてしまった写真は明らかにわかってしまいます。誤魔化しがきかないのです。だからこそ、僕は某誌編集長が「うまいだけで斬新さがない」といって評価しなかった生徒を高く評価しました。僕は、彼が今後も現在と同様の努力を続けていくことができるなら、数年のうちに年収数千万円になると太鼓判を押しています。
どうしてそこまで評価するのか、次号でもう少し詳しく説明していきたいと思います。
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花写真〜上手になるための18のルール〜 写真を上手に撮るために心掛けるべきことは、たった18のルール。まだカメラを持っていない人から中級者まで、読んで楽しい一眼レフカメラ入門の書。柳谷杞一郎氏が執筆・編集に関わっています 雷鳥社(2002/03)/1‚155円(税込み)
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