Photo 365 MAGAZINE & DIGITAL PHOTO LABOS
2004.09.06
vol. 11
写真を仕事にしたい人、写真家になりたい人はもちろん、
写真に興味のある人なら誰でも楽しめるメールマガジンです。
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こんにちは。
雷鳥社「Photo365MAGAZINE&DIGITAL PHOTO LABO」エディターのオオネダです。
写真を撮ること、観ることが好きな人にお届けしているこのメールマガジン。
第一線で活躍する写真家のインタビュー、写真の撮り方のワンポイントレッスンという二つの柱でお届けしています。
好評を得ている坂田栄一郎さんのインタビューも、今回がいよいよ最終回です。誠実で、そしておちゃめな面を持った坂田さんのお話がこれで終わりなのは残念ですよね。その魅力の続きは、写真展でぜひ! 私もこれから会場に行ってきます!

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私が写真を撮るワケ
自然と人間の共生を写真で伝えたい。写真家・坂田栄一郎インタビューVol.5
これまで4回にわたり、写真とは何か? 写真で表現することの意味、そして人との出会いの大切さについて、写真家・坂田栄一郎さんに様々な視点で語っていただいた「私が写真を撮る理由(わけ)」も今回で最終回。
最終回では、9月4日より東京都写真美術館にて9年ぶりに開催されている展覧会「PIERCING SKY−天を射る」について、そしていま一度、坂田さんにとっての写真、写真を撮りたい人たちへのメッセージを語っていただく。
■ Profile ■
坂田栄一郎(さかたえいいちろう)
1941年東京生まれ。1965年、日本大学芸術学部写真学科卒業後、1966年に渡米。ニューヨークで写真家リチャード・アベドンに師事。1970年、個展『Just Wait』でデビュー。1971年に帰国後、CM、雑誌などを中心に活躍。一方で、週刊誌『AERA』の表紙は、1988年創刊以来担当。撮影した人数は850人を超える。また、1993年には世界でもっとも有名な写真の祭典である「アルル国際写真フェスティバル」に招待され、「アルル名誉市民賞」を受賞。写真集に、『注文のおおい写真館』(流行通信社・1985年)、『Talking Faces』(六耀社・1990年)、『amaranth』(1995年・朝日新聞社)がある。
(C)坂田栄一郎
「PIERCING THE SKY―天を射る」坂田栄一郎展
静謐なモノクロの「人物」と色鮮やかな「自然」が対峙するように表現した、未発表作品約100点を展示。
会期:2004年9月4日〜10月11日
お問い合わせ:東京都写真美術館
(TEL:03-3280-0099)
詳細はこちら

「PIERCING THE SKY―天を射る」
7年の歳月をかけて撮りおろされた人と自然の姿に、太古から交わし合ってきた生命の息吹が見える。悲劇的な世界を救う力はどこにあるのか、現代社会で我々に問われていることは何か?警鐘と深い人間愛に満ちた一冊。デザイン・井上嗣也、寄稿文・丸山健二といった豪華ラインナップ。
求龍堂(9月4日の東京都写真美術館の展覧会に合わせ刊行)




PIERCING SKY
今回の写真展はアマランスの延長線上にある。そしてもっと問題意識を持って、より深いところで考えて表現していきたいと坂田さんは言う。

「PIERCING SKY−天を射る」
人間や自然のエネルギーが天を突き抜けるような、力強いイメージ。

人、動物、生物、自然というものが発する“気”を自分がどう受け止めていくのか。そういった問題意識を持ちながら作品に向かい、「人物」と「自然」をテーマにここ7年の間、撮り続けてきた。

「何となく時代がいい方向へ流れていかない。どちらかというと悲劇的な方向に行っているような。自分がちょっと落ち込んだときに『こんな世の中で…』っていう思いでいる人は多いと思うよ。こういう社会の荒廃によって傷ついた心を癒していきたい。そういう視点でみんなに投げかけていってあげたいね」
僕は好奇心が強いから、何でも経験したい
最近はデジタルカメラやカメラ付き携帯の普及などで、以前よりも写真が生活の一部として広がってきている。パソコンやプリンターの普及も相まって、誰でも自分のイメージを形にしやすくなってきてるのは確かだろう。そんな中でプロとして写真を目指す若者は今どういう方向に向かっているのだろうか。

「この前ニューヨークから来たキュレーターの人が、書店で手にとった写真集を見て『この人すごいわね。ずいぶんたくさん写真集出しているのね』と言った。それらは全部違うカメラマンの作品だったわけ。彼女には全部同じように見えてしまったんだね」

「写真はたくさんあるけど、どうしてもみんな似ちゃうんだよね。自分が創りたいもの、撮りたいものを自分の中で模索している段階は何でもパチパチ撮っていてもいい。ただそこから脱して乗り越えたときに、人とは違うものを撮りたいという気持ちになる。自分がそういう気持ちにならないとなかなか難しいよね」

「今の若者は人と人が擦れ合うこと、面と向かって話すことを避けているようにも見えるよね。日常の中で人を撮るときもなかなか向き合おうとしないような。撮りやすいものに走りがちなところはあるよね。世の中がそういう方向に向かっているから写真も変わってきているのかもしれない。それがいいのかどうか分からないけど、でもそういうことを経験して、そこから違うことを考えて次に進んでいければいいのかもしれないよね」

確かに最近の若者は日常的なスナップ写真が好きだ。スナップショットを撮るだけなら、他者とはブツからずにすむ。多くの若者は無意識に自分にとって楽な方を選んでいるように思える。

「ただ、時代時代の流行っていうものがあって、その流れに乗ってないと食べられない、古いという雰囲気があるからね。そういうところで追いこめられてしまうんじゃないかな。だから自分に自信を持って、何でもいいから『これは面白いんだ』というものがあったら取り組んでいけばいいんだよね。自分がどう表現しようか、何を表現しようかということをもっと深く考えていった方がいいんじゃないかな」

「そして『人と違うことをやろう!』という人が出てきたら、そういう人の作品を取り上げていってあげないといけないと思う。流れに乗っている人だけではなくて、自分の視点で撮っている人の作品も取り上げて、いろいろな道を作っていってあげないとかわいそうだよね」

人にブツかっていこうとしないのは、人から批判されたり否定されたりすることに臆病になっているからかもしれない。教育の現場での様々な問題も影響してか、今日では日本全体が「叱って育てるよりも、褒めて育てる」といった風潮にあるように思う。

「僕は人一倍好奇心が強いし貪欲だから、人から何でも吸収したい。やっぱり人が何か言ったらそれを聞いていて『この人はなぜそういうことを言うのか』『それってこういうことかな』って深く考えるよね。人の言った言葉の中に何かを見つけようとしていた。それに若いときは自分がまだまだ未熟だってことを自覚しているじゃない。少しでも大きくなりたいって思うでしょ」
個性的に。そして人との出会いを大切に
「個々の主張がないと想像力も乏しくなるし、個性的な人が生まれない。これは日本の社会に問題があるんだよ。でも良い人たちがたくさんいるわけだから、一期一会の縁を大切にしていけば自然に道は開けてくるものだよ」。

「温故知新」という言葉があるが、坂田さんは人と違う新しいものを求めつつも、経験のある古い人の意見に謙虚に耳を傾ける姿勢を持ち続けてきたのだろう。そして、決して自分の立場を見せつけるようなことなく、どんな人に対しても同じように接してくれる。そんな気さくで自然な雰囲気が、撮られる人の心の緊張をといて、自然な表情を引き出してくれるのかもしれない。

最後に、これからプロカメラマンを目指す若いフォトグラファーたちに向けてメッセージを頂いた。

「あまり流行なんかに惑わされないほうがいいよね。コンテストでの評価もどんな審査員かによって大きく変わるしね。売れっ子の写真評論家の言葉に引きずられて、自分の考えをどこかに投げ出したりしないことが大切だよ。一般的に評価されているものだけを信じたり、そういうスタイルを追随したりするだけでは、個性的な、人とは違う自分の写真というものがなかなか撮れなくなってしまう。同じものを撮っても、レンズを通すとまったく違うものが撮れる。そこがカメラの面白さなのだから」
5回にわたる坂田さんのロングインタビューも今週で最終回。坂田さんの魅力の続きは開催中の写真展でぜひ!
次週は、本誌スーパーバイザーの柳谷杞一郎さんが、『エスクァイア日本版』編集者時代の仕事で坂田さんにはじめて出会った時のエピソードを綴った「Photo365MAGAZINE」特別版でお届けします。

写真


柳谷杞一郎の写真上達のための100のルール
こんにちは。
柳谷杞一郎です。
「Photo365MAGAZINE」の読者のために、写真上達のためのヒントを毎回少しずつご紹介しています。まずスタートから18回は、『花写真〜上手になるための18のルール』(雷鳥社)という本で一度書いていたことをおさらいしていきます(Photo365MAGAZINE版オリジナル原稿に手直しした部分もあります)。
今回はその11回目です。
■ Profile ■
柳谷杞一郎(やなぎたにきいちろう)
写真の学校/東京写真学園校長。
広告・出版物の制作ディレクターを経て、88年エスクァイア日本版の月刊化に際し、編集者として参加。90年副編集長。91年にカメラマンに転身。“大人の感性”と“少年の温もり”の混在する写真家として注目を集める。写真集に『Rapa Nui』『X』、著書に「写真でわかる<謎への旅>」シリーズの『イースター島』『マチュピチュ』などがある

本誌に執筆中の柳谷杞一郎氏がスーパーバイザーを務める「エスクァイア日本版デジタル写真賞」参加者募集中!
全4部門からなる写真賞の共通のテーマは「Art of Living」。最優秀作品賞には、賞金100万円が授与。9/1から参加費無料で募集開始
詳細はこちら
「写真の学校」の教科書
はじめて一眼レフを手にする初心者からプロカメラマン目指す上級者まで、写真が大好きな人が通っている写真の学校がつくった「写真の教科書」。作例の写真が豊富に掲載されていて、写真を本気ではじめる人にはうってつけの1冊
雷鳥社/1‚575円(税込み)
rule11 絵を描くつもりで写真を撮る

 花はフラットな光の中でも美しい。
 鮮やかな色との組み合わせ。
 同系色で濃淡の組み合わせ。
 色面構成のつもりで写真を楽しもう。


撮影は「影を撮る」と書く。普通であればバランスよく光と影を組み合わせることで面白い写真を仕上げていくのだが、花の写真に関しては、そこにそれほどこだわらなくてもいい。通常なら避けたいフラット(平板)な光の中でも、十分にその魅力を引き出すことが可能だ。花は存在そのものが美しいからである。どの色とどの色をどれくらいの割合いで組み合わせればよいか。花写真はまるで色面構成をする作業にも似ている。色や形に対する感性や構成力がポイントになるのである。デザインをするつもりで写真を撮る。絵を描くつもりで写真を撮る。それが楽しいようなら、あなたの写真はこのあと大きく成長していくことだろう。


-Kiichiro’s Voice-

写真は「色面構成」であるというのも、ひとつの真実である。読者の皆さんは絵とかデザインに興味をお持ちだろうか。写真が上手になるためのトレーニングは、それこそ多種多様である。本を読む。恋をする。料理を楽しむ。電車に乗って人を観察する。どれもこれも有効だけれど、なんといっても効果バツグンなのは、美術館に行くこと。例えば僕の写真は西洋絵画に強い影響をうけていると自覚している。

学生時代、大学を1年休学してヨーロッパを旅した。パリに1ヶ月、ほとんどルーブル美術館に通いづめ、ロンドンに1ヶ月、同様に大英博物館に通いづめ、マドリッドに1ヶ月、プラド美術館に通いづめ、1ドル=240円の時代。本当にお金はなかったけど、なんか、楽しかったなぁ。

もちろん、ニューヨーク近代美術館も大好きな美術館のひとつ。いままで何度ニューヨークに出掛けたか忘れたけど、ニューヨーク近代美術館に足を運ばなかった旅行は1度もない。1泊2日のニューヨーク滞在でも、たった1時間しか時間がなくても必ず訪れる場所なのである。

そういえば春に森美術館で「モダンってなに?」(ニューヨーク近代美術館展)っていう展覧会やってたよね。皆さん、行きましたか?スゴかったですよ。日本に居ながらにして世界の美術品が観れる。いい時代だ。
花写真〜上手になるための18のルール〜/監修・写真の学校/東京写真学園
写真を上手に撮るために心掛けるべきことは、たった18のルール。まだカメラを持っていない人から中級者まで、読んで楽しい一眼レフカメラ入門の書。
雷鳥社(2002/03)/1‚155円(税込み)




編 集 後 記
時代の流行、個性的であることと、謙虚さ……ん〜、やっぱり大事なのはバランスですよね。さて、坂田さんのインタビューいかがでしたか? ちょうど今「PIERCING SKY」の写真展が開催されています。皆さん是非是非、足を運んでみて下さい。会場で坂田さんに会えるかもしれません! 次回インタビュー第3弾もお楽しみに。(Hanaoka Mariko)
問 い 合 わ せ
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