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■ Profile ■
柳谷杞一郎(やなぎたにきいちろう) 写真の学校/東京写真学園校長。 広告・出版物の制作ディレクターを経て、88年エスクァイア日本版の月刊化に際し、編集者として参加。90年副編集長。91年にカメラマンに転身。“大人の感性”と“少年の温もり”の混在する写真家として注目を集める。写真集に『Rapa Nui』『X』、著書に「写真でわかる<謎への旅>」シリーズの『イースター島』『マチュピチュ』などがある
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ここで話は少し横道にそれます。カメラマンの仕事量とギャランティ(報酬)の話です。
昔から、カメラマンの仕事は編集者、ライターと比べて手離れがいいといわれ続けてきました。編集者やライターが、執筆、デザイン入稿、校正・校閲など取材の後も仕事が続いていくのに対して、カメラマンは現像したフィルムを編集部に届けたところで仕事は終わります。で、ギャランティはライターと同じレベルという場合が多く、編集者として仕事をしていた僕は、いつもカメラマンっていいよなぁ、ライターは大変だよなぁと思っていました。 多くの雑誌の仕事のギャランティはページ単価です。カメラマンは、一日に10ページ分の撮影をすることも可能ですが、ライターが一日10ページ分の原稿を書くことは容易ではありません。しかもカメラマンが取材撮影の日だけ拘束されているのに対して、ライターは取材、執筆、原稿内容のチェックなどで、数日間(ヘタをすれば何週間も)を費やすことになります。 これで、ギャラが似たようなものだとしたら、誰だってライターよりカメラマンとしての仕事を選んでしまうはずです(普通の人はそんなもの天秤にかけないかも)。でも、僕は結局編集者・ライターの仕事を捨て、カメラマンになってしまいました。
話を元に戻しましょう。「感材費ゼロ」という理由による、銀塩写真からデジタル写真への移行なのですが、これは間違いなく、カメラマンの仕事を増やすことになりそうです。
まず、今までプロラボに出していた現像の作業を自分でやらなくてはなりません。次は写真のセレクトです。これは前からカメラマンの仕事でした。デジタル撮影した写真をパソコン画面上でセレクトするのは大変なので、インデックスプリント(ベタ焼きのようなもの)をする人が多いと思います(パソコン画面上で比べて21枚目のカットと32枚目のカットと45枚目のカットのどれが一番いいかをチェックするのは結構面倒ですからね)。インデックスプリントでは、細かな違いがチェックできないので、あら選びしたものを何枚かテストプリントしてみます。あるいは画面上で大きくしてみて確認します。ポジフィルムだったら、何枚かの写真を並べてルーペでのぞけばOKだったのに。
この後データをCDに焼き込み、プリント見本をつけて編集部に納品します。ここまででも作業は大幅に増えました。 最近の編集部は、これに加えて、画像編集、レタッチの作業をカメラマンに求めます。 で、この画像編集、レタッチの作業に対してプラスアルファのギャラは支給されません。
『写真の学校/東京写真学園』の卒業生たちも、デジタルに強い人は、こういう仕事をさせられている人が多いようです。たいていの場合、決められたページ単価は画像編集、レタッチが加わっても変わることはありません。
撮影は1日で済んだのに、その後の作業に1週間かかったりするのです。 ギャランティの高い広告写真で仕事をしているカメラマンの人からみれば、「そんなバカな」という話だと思います。
彼らは、現像作業も、インデックスのプリントも、CDへの焼き込みも、すべて別料金で請求できる人たちだからです。画像編集、レタッチは、自分ではやらず、その道のプロに頼みます。その作業に対するギャランティはもちろん別途です。たまに自分で画像編集、レタッチをやる人もいますが、もともと撮影のギャランティが100万円単位ですから、画像編集、レタッチのギャランティもそれに準じて大きくなります。 東京写真学園の講師陣でも、広告の写真の最前線にいる人たちは、撮影以外の作業は当然別に請求すべきだとおっしゃいますが、仕事をスタートさせたばかりの若いカメラマンは、そんなことがいいだせません。いまや画像編集、レタッチは特別技術者による難しい仕事ではなく、個人のパソコンでできるわりと簡単な作業と認識されつつあるからです。
かくしてカメラマンの仕事は、ライター並みに取材撮影後に費やす時間が多くなってきています。これもデジタル写真が生み出した新しい流れなのでしょう。銀塩写真も、デジタル写真も、写真は写真。でもカメラマンの仕事の中身はここで大きく変化しそうです。
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